Porsche - サウンド・マシーン

サウンド・マシーン

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911RSR は2018 年シーズンに向けて綿密な改良を進め大飛躍を成し遂げた。このシーズンは2019 年 6 月まで続いていく。つまり、ル・マン 24 時間耐久レースに 2 回参加する特別なシーズンだ

ル・マンの GTE クラスに挑むポルシェ。参戦を表明している 10 台の 911RSR が伝統の長距離レースで新たな 1 ページを綴る。何はともあれ、トップサウンドが聞こえてくることだけは確実だ。

現行の 911RSR のサウンドは誰にも真似することができない。一度聞いたら忘れられない音。この 4 リッター高回転水平対向エンジンが放つ、まるで絶頂を迎えるような鋭い叫び声。ターボチャージャーに邪魔されることなく、速度 300km/h 以上で轟くエンジンサウンドがル・マンに広がる闇夜を切り裂いていく。ポルシェファンの耳には、6 つのシリンダーが奏でる交響曲のようなものなのだ。50 年以上もの歴史を誇る 911 の中でもトップスピードを誇るこのレーシングカー。鳥肌もののそのサウンドは、何度聞いても雷にでも打たれたような衝撃を与えてくれるのだ。

史上最強の GT 参戦

6 月 16 日と 17 日に開催されるル・マン 24 時間レースをひと目見ようと、何十万人ものモータースポーツファンがサルト・サーキットに足を運ぶ。今年、参戦を表明しているのは 10 台の 911RSR。GTEPro クラスでは、ポルシェから 4 台のワークスカーを投入し、BMW、フォード、コルベット、アストンマーティンといった強力なライバルたちとの熱戦が期待される一方、GTEAM クラスではポルシェのワークスドライバーも参加することがあるカスタマーチームが 6 台の RSR でエントリー。ル・マン史上最も勝利が期待される GT チームとしてレースを盛り上げ、観客の期待を裏切ることなく伝説の 24 時間耐久レースをハイスピード・フェスティバルへと昇華してくれるはずだろう。

1951 年にサルト・サーキットで行われる伝説の長距離耐久レースに初参戦したポルシェは、フランス人ドライバー、オーギュスト・ヴュイレとエドモン・ムーシュがスタートナンバー♯46 の 356SL でクラス優勝を果たしたのを皮切りに、総合優勝 19 回、クラス優勝 136 回を手にしてきた。もちろん、そのル・マンでの栄光は、ポルシェの主力モデルである 911 なしでは語れない。ル・マンを意識した開発の数々を市販モデルに転用することで、主力モデルとしての個性を磨いてきた 911。それはモータースポーツと切っても切り離すことができない固い絆で結ばれている。

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13 ヶ月で 8 レースが行われるスーパーシーズン
2018
5 月 5 日: スパ・フランコルシャン 6 時間レース, ベルギー
6 月 16 日、17 日: ル・マン 24 時間レース, フランス
8 月 19 日: シルバーストーン 6 時間レース, イギリス
10 月 14 日: 富士 6 時間レース, 日本
11 月 18 日: 上海 6 時間レース, 中国

2019
3 月 16 日、17 日: セブリング 12 時間レース, USA
5 月 4 日: スパ・フランコルシャン 6 時間レース, ベルギー
6 月 15 日、16 日: ル・マン 24 時間レース, フランス

レギュレーションぎりぎりまでディテールを調整

911GT3RS をベースとした現行の RSR は進化系モデルのトップにもかかわらず、スチール製シャシーの中核となるパーツは、市販モデルと同様にツッフェンハウゼンの工場で作られている。ポルシェのスペシャ リストたちはモータースポーツセンターでこれらのパーツを入念に手作業でレーシングカー用へと仕上げ、GTE のレギュレーションのぎりぎりまでディテールまで調整していく。

最高出力 510PS を発揮する自然吸気対向エンジンに至っては、リアからリアアクスル前部に移動したことで、空いたリアのスペースに大型化したディフューザーを設置し、ダウンフォースとエアロダイナミクスが大幅に向上。これにより、RSR は理想的な空気抵抗を維持しつつも、トップスピードでコーナーを攻めていくことができ、特に長距離をスロットル全開で駆け抜けていくル・マンでは大きなメリットとなる。またリアウィングがリアアクスルにかかるさらなるダウンフォースを生み出し、効率的なエアロダイナミクスを実現。他にも、エアロダイナミクスを考慮し、軽量のカーボンファイバー製ボディパーツを数多く使用し、ドライバーを保護する役目を担うスチール製の安全ケージが直接車輛に溶接されていることで、より安全で頑丈な仕上がりとなっている。

2018 年に二回目のシーズンを迎える 911RSR。今年の 5 月に初戦が行われ、2019 年の 6 月に最終戦が行われる FIA 世界耐久選手権(68 ページ参照)では、ル・マン 24 時間レースを 2 回、フロリダのセブリング 12 時間レースを 1 回、6 時間以上のその他耐久レースが 5 回も予定されている他、RSR の 4 台のワークスカーのうち 2 台が、長距離レースの代わりに、ル・マンのゲスト競技に加え、北米 IMSA ウェザーテック・スポーツカー選手権の全 12 レースに参戦する。

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現代の十種競技
ポルシェ 911 の頂点に立つ RSR。この車はカルト的ステータスを誇る 911 の中でもトップスピードを誇る一台だ。ル・マンへの準備は万全に整っている。今年の 24 時間耐久レースにはワークスマシン 4 台、カスタマーマシン 6 台が参加する

市販モデルのための貴重なデータ

怒涛のスケジュールを前に、常に重要視してきた効率性、そして耐久力が勝利のカギを握ると確信するポルシェ。GT クラスのトップアスリートである RSR が二回目のシーズンを迎えるにあたり、過去数年間にわたりポルシェのエンジニア陣は基本のセットアップでどのコースにも対応できるように膨大なデータを収集してきた。もちろんこの貴重なデータはカスタマーチームも活用。両者とも準備に抜かりはない。

2018 年、911RSR がどのような結果をポルシェにもたらすかは別として、今の時点ですでに分かっていることがある。さらに厳格化されたレギュレーションの下で繰り広げられる過酷なレースで得るノウハウや技術を直ちに市販車にフィードバックすることができるのだ。例えば、ジュネーブモーターショーで 3 月に公開された新しい 911GT3RS。最高出力 520PS(383kW)、最大トルク 9000rpm を発揮する 4.0 リッター自然吸気エンジンには、911RSR から得られたノウハウがたくさん詰まっている。

レースから市販車へ。カスタマーにも嬉しいメリットがこれからも多く誕生するはずだ。

Klaus-Achim Peitzmeier
写真 Porsche