Porsche - …お次は画像と一緒に

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プロも関心:ロールケージが標準装備されたコックピットを吟味するレーシングドライバーのスヴェン・ミュラー(左)とアール・バンバー

911 をさらにスポーティに進化させた
新型 GT3 RS が登場。かつてないほどレーシングマシーンに
近づいたハイエンドモデルの詳細をレポートする。

さらに貪欲に進化を遂げた新型ハイエンド 911。ベー
スモデルとなった “911 GT3 の改良版” とひと言で片づけるには忍びない。RS に課せられた任務は、スーパースポーツ・セグメントに新たな一石を投じること。よりワイドに、そして気高く映るエクステリアからは、その確固たる意思が伝わってくる。「新型 GT3 RS に採用したフロント・タイヤの幅は、他のスポーツカーならリアに装着するようなサイズです」と説明するのは、GT プロジェクトリーダーのアンドレアス・プロイニンガーだ。5cm ほどワイド化されたフロントセクションには、幅 265mm の 20 インチ・タイヤが装着され、従来の GT3 に比べて 3cm ワイド化されたリアセクションには、918スパイダーと同様、幅 325mm の 21 インチ・タイヤをフェンダー内に収めることができるスペースが確保されている。「この上はレー
ス・タイヤだけですね」と話しながら GT3 RS を入念にチェックしているのは、ティームメートのアール・バンバーと共にヴァイザッハを訪れたスヴェン・ミュラー。彼が「まるでモンスターですね」と興奮するのも無理はない。スポーツカーとレーシングカーの境界が厳格化していく昨今にあって、ヴァイザッハ研究開発センターのモータースポーツ部門では、その境界が良い意味で曖昧な弩級モデルの開発が進められているのだから。

「エンジンは言葉では表せないほどのパワーを秘めています」と
ミュラーは驚きを隠さない。リアに搭載された 4 リッター水平対向エンジンはロングストローク設計で、ピストンロッドは短め。クランク
シャフトにはこれまで船舶や F1 マシーンにしか用いられてこなかった高純度スティールが採用され、最高回転数はなんと 8800rpm にまで達するというのだ。吸気系には新たなエアインテークシステムが投入され、911 ターボと同様、25~30 ミリバールに達するラムエアインテークを応用することでサイド・エアインテークよりエアを一
気にユニット内へと送り込む。かくして新型エンジンの最高出力は、先代モデルに比べて 50PS アップの 500PS を発生すると同時に、燃費の向上も実現している。

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揚力を抑えるフロントエアアウトレット:エンジンに圧縮空気を送り込むサイド・エアインテーク

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新型 GT3 RS の走行速度が 
300km/h に達した場合、車輌に掛かる
ダウンフォースは 330 kg におよび、
空気抵抗に関しても優れた数値を示す。
この優れた空力性能を可能にした
部品のひとつが、フロント
フェンダーに装着されたリブ入りの
エア・アウトレットだ。

「効率性に関しては、既存の目標値を上回る結果となっています」
とプロジェクトリーダーのプロイニンガーは説明する。性能の向上はエンジンだけではありませんよとでも言いたげに、スヴェン・
ミュラーが自らの手でリアフェンダーを撫でる。新型 GT3 RS の走行速度が 300km/h に達した場合、車輌に掛かるダウンフォースは 330kg におよび、空気抵抗に関しても優れた数値を示すという。この優れた空力性能を可能にした部品のひとつが、フロントセクションに装備されている。「カーボンファイバー製のフェン
ダーにリブの入ったエア・アウトレットが確認できますが、一般的にこの種のパーツは純粋なレーシングマシーンにしか装着されていません」とアール・バンバー。

ティームメートのミュラーとロールケージが標準装備されたコックピットを凝視しながら、バンバーは「見てください、ピットストップ専用のスピードリミッターが搭載されています」とセンターコンソールのスイッチを指さす。一般的に、RS モデルは 2 台目のポルシェとしてオーナーのガレージに保管され、サーキット走行を楽しむ純粋なドライビングマシーンとして供されるケースが多い。そんなスーパースポーツカーを前に「USB インターフェースも搭載されていますね」と感心するバンバー。それは GPS を利用してラッ
プタイムが計測できるトラックアプリのための装備だ。ポルシェが新たにプログラミングしたこのアプリは、回転数やコーナリングフォース、ブレーキ圧といった数値を測定・保存し、ゴーストカー
機能を利用すれば iPad 画面上でクローズドサーキットにおける
これまでの参照ラップタイム同士を仮想比較することも可能だという。ちなみにこの新型 GT3 RS、開発エンジニア陣の間では、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは、先代モデルに対して 10 秒強のマージンを得るだろうと予想されている。

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内に秘められた
パワー:4 リッター 6 気筒
水平対向エンジンの
最高出力は 500PS、
最高回転数は
8800rpm に達する

スヴェン・ミュラーが、カーボン製のフロントフードをこぶしで軽く叩く。新型 RS は、レーシングカーに属するモデルとして並々
ならぬ軽量設計が施されているのは言うまでもない。チタン製エグゾーストシステムの採用だけでも 4 キロの減量に成功し、バッテリーもサーキットでは軽量のリチウムイオン電池に交換される。中央部がくぼんだ特徴的なルーフは、軽量化と共に車輌の前面投影面積を抑える機能を果たす。アンドレアス・プロイニンガーは、「この革新的なルーフ構造はオートモービル界にこれまで存在しないものです。マグネシウムプレートで造られ、カーボンファイバー製の同等品よりも 1 キロ軽くなっています」
と強調する。

技術仕様に着目すれば、現行の GT3 より重くなっても不思議ではない。実際、大型化したシャシーとワイド・タイヤだけを見れば GT3 のそれに比べて 20kg 増となっている。従来のマニュアル・トランスミッションの代わりに、重量のかさむドッペルクップルングが採用されたことも軽量化とは逆行する。だが、超軽量設計コンセプトだけでラップタイムを更新できた時代はすでに終わっ
ている。「パフォーマンス向上に繋がり、マシーンにとって妥当だと判断されたシステムであれば採用していきます」とプロイニンガー。その言葉を裏付けるかのように、新たにトルクベクトリング・ディファレンシャルやリアアクスルステアリングがエンジニア陣の要望により装備されたにもかかわらず、新しい GT3 RS の車輌重量は、先代モデルと比べて全体で 10kg の軽量化を実現した
のだった。

新型 911 GT3 RS は限定モデルではないものの、2016 年初頭までの生産を予定していることもあり、現時点では最高 2000 台が販売目標として掲げられている。「ワークスドライバーとして経験の浅い私が今年、GT3 RS を公用車として使うのは……やっぱり無理ですよね」と、バンバーは悔しそうな表情を浮かべた。

Markus Stier
写真 Victor Jon Goico

911 GT3 RS (タイプ 991)

エンジン: 水平対向 6 気筒エンジン
排気量: 3996cc
最高出力: 368kW (500PS)
最大トルク: 460Nm / 6250rpm
0–100km ⁄ h 加速: 3.3秒
最高速度: 310km/h
CO2 排出量(総合): 296g/km
燃料消費量
市街地: 19.2リッター/100km
総合: 8.9リッター/100km
総合: 12.7リッター/100km
効率クラス: G